千年樹(荻原浩)満足度:☆☆☆

千年樹
一本の巨大なくすのきにまつわる古今の話をまとめた短編集。何となく今の山形県あたりが話の舞台かな、とイメージしながら読んでいたが、果たしてどうだったのだろう。
本作は、読みながら「へへへ」っと笑ってしまうようないつものユーモラスな荻原作品だと思って読み始めたら、ちょっと違った。
冒頭は、都から東国の国司へ任命された男とその妻子が現地豪族の反乱に遭い、アキレス腱(?)を切られて山中に放り出された挙句、力尽きる場面。
最後まで生き残ったのは幼い子供だったが、それもやがて両親の骸の傍で事切れて、しゃぶっていたくすのきの種が地面に落ちる。
およそ千年の時を経て、不良グループのイジメに苦しむ中学生・雅也が、「子盗りの木」と呼ばれるくすのきの巨木の枝で自殺しようとする。
短編毎に、設定が江戸時代になったり戦時中になったりするが、どの時代でもこのくすのきは苦悩する人間をあざ笑うかのように超然とそこに立っている。
最終話で、いよいよ寿命を迎えたのか、枝が落ちてけが人が出るという事故を起こして伐採されるくすのき。そこに立ち会う市役所職員も、その時の市長も、その前までの短編に登場する。
くすのきが超人的な活躍をするわけでもなく淡々と各時代の話が進んでいくから、なおさら時の流れの無常さを感じさせられる本だった。