手の中の天秤(桂望実)満足度:☆☆☆☆

手の中の天秤
52歳の大学講師・井川は、執行猶予の最初の2年間に被害者遺族が半年毎に加害者の反省具合をチェックしたうえで刑の執行を決められる「執行猶予被害者・遺族預かり制度」を大学で教えている。30年前に大学を卒業する際に映画監督を諦めて就職した井川は、この制度の新人担当官になったのだった。若者らしい正義感に燃えていた井川は、「チャラン」というあだ名がぴったりの、自分とは正反対のいい加減なタイプの中年の先輩と衝突しながらも、懸命に被害者家族の心情に寄り添おうとしていた。
担当官時代の実際の事件に沿って「執行猶予被害者・遺族預かり制度」の講義を進めていく井川は、必然的に、若さゆえに空回りする自分と、いい加減で淡泊な対応でフォローするチャランについて話すことになる。最初は空席が目立った講義も、回を重ねてチャランの登場が増す毎に学生の聴講が増えていく・・・。
まずはこの「執行猶予被害者・遺族預かり制度」がフィクション。なのに、それを30年前の懐かしい事実として回想しながらのストーリー展開。井川とチャランの絶妙な凸凹振りや今どきの大学生達の醒めた反応が醸し出すリアリティ。で、ラストにちょっぴり甘目のサプライズで読後感良し!
いや〜、じわじわと尻上がりに(?)面白くなる凄い本だった。